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2026/08/28 14:20 ~ なし
――小売業は「変化対応業」である

小売業研究所~花業界の未来を考える~
昨今、日本企業の倒産に関するニュースを目にする機会が明らかに増えました。
誰もが知っている企業の経営破綻や事業撤退、M&Aのニュースも、テレビやSNSでは決して珍しいものではなくなっています。
もちろん、企業が倒産する理由は一つではありません。
人口減少、人手不足、原材料価格の高騰、人件費の上昇、価格転嫁の難しさ、後継者不足。
業種や企業によって事情は異なりますが、少し考えただけでも現在の企業経営を取り巻く問題はいくつも思い浮かびます。
その中でも、特に多くの企業に共通しているのが「物価高騰による消費行動の変化」ではないでしょうか。
物の値段が上がれば、当然ながら消費者は何にお金を使うのかをより慎重に考えるようになります。
必要なものを優先し、不要不急と思われるものへの支出を減らす。
これは極めて自然な行動です。
そして、こうした時代に影響を受けやすい業界の一つが、私たち花業界だと思っています。
昔の日本は、本当に良かったのか
最近、私はよく考えることがあります。
「昔は今ほど大変ではなかったのだろうか?」
昔を思い出してみると、不思議と楽しかった記憶ばかりが残っています。
しかし、実際にはそんなことはなかったはずです。
就職氷河期があり、企業間競争があり、景気低迷があり、その時代ごとに多くの人が苦しんできました。
ガソリン価格一つを取っても、
「昔は安かった」
という話をよく聞きます。
確かに価格だけを見れば安かったでしょう。
しかし、その頃は現在より賃金も低かった。
さらに現在では、日本円そのものの購買力も変化しています。
昔の1万円と現在の1万円を、単純に同じ価値として比較することはできません。
つまり、昔にも昔の苦しさがあり、今には今の苦しさがあります。
「昔は良かった」で終わらせてしまえば、そこから先には何も生まれません。
大切なのは、
時代そのものが変わった
という事実を受け入れることだと思います。
花業界にも大きな変化が起きている
花の需要も、この10年ほどで大きく変化しました。
葬儀一つを見ても、以前のような大規模な葬儀だけではなく、現在では家族葬をはじめとした小規模な葬儀が一般的になってきています。
結婚式の形も変わりました。
会社同士の付き合い方も変わりました。
お祝いの仕方も変わりました。
そして、家庭で花を飾るという習慣も変わりつつあります。
これは誰が悪いという話ではありません。
社会そのものが変わった結果です。
しかし、ここで小売業者が考えなければならないことがあります。
10年前と同じ商売のやり方を、そのまま現在に持ってきて通用するのか。
私は、答えは「否」だと思っています。
小売業は「変化対応業」
小売業には、
「小売業とは変化対応業である」
という言葉があります。
私は非常に好きな言葉です。
お客様が変われば、売り方も変える。
生活様式が変われば、商品も変える。
物価が変われば、価格や商品構成を見直す。
人手が足りなければ、業務の仕組みそのものを変える。
時代が変われば、自分たちも変わる。
これが小売業だと思っています。
以前は、
「前年を超える」
ということが企業の成長を測る一つの分かりやすい基準でした。
去年より今年。
今年より来年。
売上を伸ばし、店舗を増やし、人を増やす。
しかし、人口そのものが減少している現在では、すべての業種が毎年当然のように前年を超え続けること自体が難しくなってきています。
だからこそ、
売上が増えたか減ったかだけで企業の成長を判断する時代ではなくなってきているのではないか。
私はそう感じています。
同じ売上でも利益を残せるようになった。
少ない人数でも運営できるようになった。
廃棄を減らせた。
新しいお客様に商品を届けられるようになった。
今まで1時間かかっていた仕事を10分で終わらせられるようになった。
これも立派な企業の成長です。
花は景気の影響を受けやすい
花の業界では昔から、
「景気が良くなった時の恩恵は最後に来て、景気が悪くなった時の影響は最初に来る」
というような話があります。
花は食料品ではありません。
水道や電気のような生活インフラでもありません。
生活が苦しくなった時、
「今月は花を買うのをやめよう」
と考えることはできます。
その意味では、決して簡単な商売ではありません。
しかし私は同時に、
花屋は絶対になくなってはいけない業種の一つだ
とも思っています。
これは花屋を経営しているから言っているだけではありません。
数百円の花と、数万円の商品
今の時代を見ていて、とても不思議に感じることがあります。
日常生活では、
「100円高くなった」
「200円高くなった」
という価格差に非常に敏感になる一方で、数万円する限定商品や趣味の商品が発売されれば、あっという間に完売することがあります。
もちろん、それが悪いという話ではありません。
好きなものにお金を使うことは素晴らしいことです。
ただ、その一方で、
食卓に一本花を飾る。
部屋に小さな花を飾る。
誰かに一本だけ花を渡す。
そんな数百円の小さな贅沢が、少しずつ生活の中から消えているようにも感じます。
忙しい。
お金がない。
時間がない。
余裕がない。
食べるものを買い、必要なものを買い、残ったお金は趣味や娯楽に使う。
そんな生活の中で、
「確かに生活の中で何の役にも立たないけれど、綺麗だからそこに置く」
というものが減っているのではないでしょうか。
花を買ってほしい、という話ではない
ここまで書いておいて何ですが、
「だから皆さん、もっと花を買ってください」
という話をしたいわけではありません。
私が少し心配しているのは、もっと別のことです。
綺麗な花を見た時に、
「綺麗だな」
と思うこと。
季節の花を見て、
「もうこんな季節なんだ」
と思うこと。
誰かが花をもらって喜んでいる姿を見て、
「いいな」
と思うこと。
そういった、一見すると生活には必要のない感情まで、効率や価格の中で失われていないだろうか。
私は時々そう思います。
花は食べることができません。
生活を便利にすることもありません。
しかし、人間の生活というものは、必要なものだけで出来ているわけでもないはずです。
だからこそ、花屋も変わらなければならない
そして、ここが一番大切なところです。
「花の良さが分からなくなった」
「最近の人は花を買わない」
と、お客様や時代のせいにしていても何も変わりません。
花屋側も変わらなければならない。
今まで花を買わなかった人にも手に取ってもらえる売り方を考える。
価格を分かりやすくする。
買いやすい商品を作る。
新しい販売方法を考える。
業務を効率化し、その分お客様と向き合う時間を増やす。
AIやシステムなど、これまで花屋とは縁遠かった技術も積極的に使う。
「昔はこうだったから」
ではなく、
「今のお客様には何が必要なのか」
を考え続ける。
それこそが、小売業なのだと思います。
守るべきものは守る。
変えるべきものは変える。
花という商品そのものの価値を守るために、花屋という商売の形は変わってもいい。
私はそう考えています。
これから10年後、花業界がどうなっているのかは誰にも分かりません。
しかし一つだけ言えるとすれば、
10年前と同じことを続けていれば、10年後も同じように商売ができる時代ではない。
だからこそ私たち自身も、花屋という仕事を守るために変化していかなければならない。
そしてその先でも、
綺麗なものを見た時に、素直に「綺麗だ」と思える。
そんな小さな心の余裕が残る社会であってほしい。
花屋としてだけではなく、一人の人間として、私はそう思っています。


