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2026/07/21 18:19 ~ なし

【小売業研究所】第二章

第二章 未来は10年前に始まっていた

~アメリカで見た小売業の未来~

前回の記事では、「小売業とは価値を創造する仕事である」というテーマについてお話ししました。

今回は少し視点を変えて、「未来」というものについて考えてみたいと思います。

皆さんは、「10年後の未来」と聞くと、どのような世界を想像するでしょうか。

AIがさらに進化した社会でしょうか。

無人店舗が当たり前になった世界でしょうか。

あるいは、今では想像もできない新しいサービスが誕生しているかもしれません。

しかし私は、小売業における未来とは、突然現れるものではないと考えています。

未来は、どこかで誰かが始めた挑戦が、時間をかけて広がり、やがて当たり前になった姿です。

つまり、「未来を見る」ということは、未来を予測することではありません。

今、どこで何が始まっているのかを知ること。

それが未来を見るということなのだと思います。


「日本の10年後を見てこい。」

私が以前勤めていた会社では、小売業を学ぶためにアメリカ研修へ参加する機会がありました。

期間は約2週間。

もちろん観光ではありません。

会社から与えられたテーマは、とても印象に残っています。

「日本の10年後を見てこい。」

当時の私は、その言葉の意味を十分に理解していませんでした。

「なぜ未来を見るためにアメリカへ行くのだろう。」

そんなことを考えていました。

しかし、実際に現地を見て、その意味が少しずつ分かってきました。

小売業は、一夜にして変わるものではありません。

新しい業態も、新しい販売方法も、新しい物流の仕組みも、ある国で成功し、それが何年もかけて世界へ広がっていきます。

アメリカは、その最前線にいることが多い国でした。

だから会社は、「今の日本」を見るのではなく、「未来の日本」を学ぶために社員を送り出していたのです。

私はその時初めて、「視察とは現在を見るものではなく、未来を学ぶための投資なのだ」と気付きました。


世界最大の小売業から学んだこと

現地では、ウォルマートやターゲットをはじめとするディスカウントストアを数多く視察しました。

私たちは店舗を見て歩くだけではありません。

売場の構成。

商品カテゴリー。

価格政策。

通路幅。

商品陳列。

お客様の導線。

一つひとつを分析し、日本との違いを記録していきました。

初めてウォルマートへ入った時の衝撃は、今でも忘れることができません。

「世界最大の小売業」と聞いていましたが、その言葉だけでは伝わらない圧倒的なスケールがありました。

天井近くまで積み上げられた商品。

どこまでも続く売場。

そして何より、品揃えの多さ。

最初は「とにかく大きい店だ」という印象でした。

しかし、何店舗も見学を続けるうちに、私の考え方は変わっていきました。

彼らが提供していたのは、「大量の商品」ではありません。

「欲しいものがきっと見つかる」という安心感。

それこそが、お客様へ提供している価値だったのです。

私はその時、「売っているのは商品だけではない」ということを強く感じました。


「豊かさ」とは何か

私には、アメリカへ行く前から一つのテーマがありました。

それは、

「豊かさとは何か。」

という問いです。

郊外型ショッピングセンター。

中心街。

そしてラスベガス。

私は様々な街を歩きました。

日本にはない圧倒的なスケール。

日本にはない消費文化。

日本にはないエンターテインメント。

どれも魅力的でした。

しかし、それらを見れば見るほど、私は分からなくなっていきました。

商品が多ければ豊かなのか。

安ければ豊かなのか。

便利なら豊かなのか。

答えは見つかりませんでした。

研修を終えて日本へ帰る時も、その問いだけは残ったままでした。

しかし今振り返ると、それで良かったのだと思います。

豊かさには、一つの正解があるわけではありません。

時代が変われば、人が求める豊かさも変わります。

だから小売業は、その時代に合わせて価値を変え続けてきたのです。


ブラックフライデーは「未来」だった

研修中、私が最も衝撃を受けた出来事があります。

それがブラックフライデーでした。

当時、日本ではほとんど知られていないイベントです。

しかし現地では、前日から店舗の前に長蛇の列ができていました。

日本であれば、新店舗のオープンでもなければ見られないような光景です。

しかし、お客様は決して苦痛そうではありません。

折りたたみ椅子を持ち込み、家族や友人と会話を楽しみながら開店を待っていました。

私はその姿を見て、不思議に思いました。

彼らは「安いから並んでいる」のではありません。

イベントそのものを楽しんでいたのです。

つまりブラックフライデーは、大規模な値引きイベントではなく、「買い物という体験」を提供するイベントでもありました。

そして現在、日本でもブラックフライデーは毎年開催され、多くの人が楽しみにするイベントになっています。

当時私が見た「未来」は、今では日本の日常になりました。


ECも「未来」だった

ちょうどその頃、日本ではAmazonや楽天市場が急速に普及し始めていました。

今ではスマートフォンから商品を購入することは当たり前です。

しかし当時は、「本当にネットで買う時代が来るのだろうか」と疑問に思う人も少なくありませんでした。

それでも時代は変わりました。

ECは生活の一部となり、今ではAIがおすすめ商品を提案する時代になっています。

わずか10年ほどで、小売業はここまで進化しました。

未来とは、遠い世界の話ではありません。

今どこかで始まっている小さな変化が、数年後には当たり前になっている。

それが小売業なのです。


では、花屋は何を進化させるべきなのか

私は今、花屋という仕事に携わっています。

だからこそ考えます。

もし今、10年後の花屋を見に行けるとしたら、どのような景色が広がっているのでしょうか。

AIが注文を受けるのでしょうか。

市場価格はリアルタイムで分析されるのでしょうか。

配達ルートは自動で最適化されるのでしょうか。

在庫管理はさらに高度になっているのでしょうか。

正直、答えは分かりません。

しかし、一つだけ確信していることがあります。

10年前に見たブラックフライデーやECが、今では当たり前になったように、今「未来」と呼ばれているものも、10年後には当たり前になっているということです。

だから私は、花屋という業界だけを見ていては、花屋の未来は見えないと思っています。

異業種を学ぶ。

物流を学ぶ。

ITを学ぶ。

経営を学ぶ。

そして小売業全体を学ぶ。

その中に、花屋の未来をつくるヒントが必ずあると信じています。


おわりに

私はアメリカへ行き、「未来」を見に行ったつもりでした。

しかし、本当に学んだのは未来そのものではありません。

未来をつくる企業は、常に変化を恐れず挑戦し続けている。

その姿勢でした。

変えてはいけないものはあります。

しかし、変えなければならないものもあります。

その見極めこそが、これからの小売業には求められるのではないでしょうか。

そして、花屋もまた例外ではありません。

10年後の花屋は、今の延長線上にあるのではなく、今日の小さな挑戦の積み重ねによって形づくられていきます。

だから私は、これからも花屋だけではなく、小売業全体を学び続けたいと思っています。

その先にこそ、これからの花屋の未来があると信じているからです。